JQFリサーチ 代表のコラム 〜共感・違和感・雑感〜

代表のコラム 〜共感・違和感・雑感〜

2020/5/17 ICT(AI/IoT)の急務がみえてきた?

 偉いひとたちが、「行政の目詰まり」とかなんだかネガティブな例えを使っています。
 それを真に受けてしまうと、なんだか行政の現場にいる人たちが要領悪くてうまくいっていないような印象になります。現実は、対面や電話でしか対応できなかったり、白板と電卓で集計した数字をFAXで伝えるしかない環境の中で、現場の人たちは日々大変な苦労を強いられているのでしょう。環境が変わらないのは、前年実績をベースにさらなるコストカットの視点で毎年の予算組みを強いられてきたわけだから無理もありません。日常業務に追われる中の人だけで考えなければいけないと思うから、外部の中立な専門家のアドバイスを受けることもはばかられるし、ふだんからお金をつけていなかったことのツケが噴きだしたということでしょう。
 同様なことが、主に公立学校の在宅リモート授業実施の課題を通じて、ゆっくりと進められてきた教育ICT導入の遅れの問題点を噴出させているように思います。教育ICTはこれまで、学校内教育へのディジタル応用に視点を置いてきたので、在宅リモート授業の実施など考えていなかったはずです。おまけにいざ実施となると、コンテンツの準備は担当教師に委ねられるので、とても物理環境のことにまで気が回るはずもありません。学校教育の現場でICTに強い人など限られているでしょうから、選定した納入業者に予算内でワンストップでできるところまでお任せ、になっているのではないかと思います。間違っていたらどなたかご指摘ください。
 さて、メディアを通じて感じられることで、おそらく多くの方から共感してもらえそうなのが、医療と介護の現場の大変さです。直感的にわかりやすく、現場の方々に直接のストレスを与えている、職場での感染の危険性については私の専門外なので、ここでは触れません。それ以外で私が大変だなと思うのは、業務における作業動線の煩雑さです。バイタルモニタやベッドサイドの治療器具がどんなに先進的でも、それらを使い、ウォッチして、患者や要介護者の容体と併せて総合的に判断し対応する役目の方々は、精神面だけでなく、肉体的にも大きな負担を感じておられるでしょう。
 多種多様かつ膨大な医療、介護機器を適切にネットワーク化し、限られた要員で効率的に対応できるよう運用する環境づくりができるのは、よほど恵まれた一部の大病院、大規模施設に限られているのではないでしょうか。中小規模の病院や、ホテル等の民間宿泊施設を活用してなんとかベッド数だけは確保できても、看護師による見回りや電話による問診などに頼るのでは、担当する方々の負担も必要な人数も、分割損で増大するばかりのように思います。
 我が国のAI/IoTを含むICT導入やディジタル化推進への補助や助成などの支援は、圧倒的に産業向けに偏っていると感じます。市井の経済循環に貢献し、税収確保にもつながるため目的対効果がわかりやすいので、これは仕方がないのかもしれません。しかし一方で、市民の人命や健康、あるいは長期的社会投資である教育に対する投資が遅れていたことが、最近の状況で一気に表面化してしまったと思います。
 他国の例ですが、最初にCOVID-19の大流行を経験した武漢では、国によって大規模な医療施設をわずか数週間で建設し、運用開始しました。同時に5Gのインフラを整備したことは報じられましたが、この意味を私は重く受けとめました。建屋と照明・空調の電気工事まではあの短期間で何とかなったが、有線ベースで通信環境まで整備するコストや時間をかけられなかった。高速大容量の5Gでエリア化し、中国ではすでに量産していた5G対応のWi-Fiルータをゲートウェイとして医療機器をネットワーク化すれば、工事コストも期間も最小化でき、医療関係者の業務負担も大きく軽減できたということでしょう。インターネットへブレークアウトすれば、患者が持ち込んだスマホなどの情報機器向けのサービスもできます。私は、これが現時点まで、公益への5G応用の最大成果なのでは、と感じています。
 時代に合った適切な教育を受けた、健康な市民や国民による労働人口を維持していくこと。これが国の将来を見据えた公益施策であることは間違いありません。今この瞬間は、目前の医療体制を維持しながら市井の経済が破綻しないようにすることが大切なのはいうまでもありません。しかし、それこそSDGsの重要課題として、医療、教育、福祉、行政へ、AI/IoTを含むICTの導入を加速すべきことにも目も向けていかなければと思います。

 

2020/4/20 「テレワークが誤解される」

 新型コロナ(?いつまで新型と言うんだろう)=COVID-19騒動で、我が家も外出自粛、というより自主的ロックダウンの2クール目で、最後に外出した日の翌日から数えて13日目です。とはいえ、同居人は在宅勤務などあり得ない仕事で、殆ど毎日出勤しています。
 さて、この状況下でテレワークという言葉が耳に馴染んだ方も多いと思います。でもって、私がものすごく違和感を感じているのが二点。

 

 まず一点目は、「テレワーク普及の問題点」と称してさまざまな専門家や、聞きかじりのメディアが発言している中に、それってテレワークのことじゃなくって、在宅勤務特有の話だろう、というのがあることです。例えば、自宅のインターネット環境が云々とか、自分のパソコンの能力不足とか、セキュリティ対策ソフトが会社指定のじゃないとか。
 はっきり言っておきます。テレワークは在宅勤務とイコールではありません。
 テレワークという言葉を20年前に初めて聞いた私の理解は、もともと、「場所」に縛られずに働くノマド(遊牧民)ワーカーが、可搬パソコンや通信機器を使いこなすことを指す言葉でした。電話やFAXだけというより少しインテリジェンスな感じ。だから、在宅勤務にテレワークの環境を利用する、というのが一番私の感覚にフィットします。

 

 二点目は、テレワーク導入率と称した企業規模別の統計。大企業はテレワークの導入が進んでいるが、企業規模が小さくなるほどテレワークが進んでいない、というイメージの植え付け。これこそ、BCPの本質とテレワークの課題をすり替えているに過ぎないと思うのです。
 ふだんからBCP(事業継続計画)にかける手間とお金に余裕がある大企業は、複数の事業所を持っていたりもするので、営業職に限らず、業務用パソコンのモバイル利用の動機づけがなされやすいのは当然のことです。
 これに対して、ひとつの事業所しか持たず、社長ひとりが営業で駆け回っているような会社は、社内のコミュニケーションの構造がシンプルなので、BCPの観点でも「テレワーク」と名づけるほどのIT環境を、ふだんから準備する必要性を感じにくいのだと思います。
 しかし一方で、零細サービス業や中小のIT企業などでは、パブリッククラウドでのサービスや開発プラットフォーム、さらには社外とのコミュニケーションにSNSを常用することも多く、「いまさらテレワーク?」というくらいノマドワークが当たり前になっている会社も沢山あります。
 役所は数字で動くので、統計分析の入り口として中小企業基本法の企業規模カテゴリを使いますが、その数字を扱うだけで聞き手に固定的なイメージを抱かせてしまうことがないよう、政府、自治体の広報やメディアの方々には気をつけていただきたいと思います。

 

 おまけ。昨年度末から今年度初にかけて、テレワーク導入支援名目のさまざまな補助金や助成金が投入されています。BCPのPの字(計画)が確立できていなかった会社にとってとてもありがたいことですし、これにより救われる事業体も数多あることと思います。ただ忘れてはならないのは、これが現在の状況下、人の移動を抑制する施策のひとつとしてなされていることです。つまり、本来は人の移動に伴う労働生産性の低下防止と、組織内外のコミュニケーション増大による価値の共創が目的であるテレワークの本分の、ごく一部の活性化に過ぎないのです。
 在宅勤務がきっかけであったとしても、より多くの皆さんが使い慣れることでテレワークの本来の価値に気づき、平時の仕事に活かしながら、同時にご自身の事業環境におけるBCPを考え直す機会になることを強く望みます。

 

 

 

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